CASIO 121-E
CASIO 121-E(以下"121-E"と略)は、1973年11月に発売されたVFD(蛍光表示管)表示の12桁・本格実務電卓です。121-Eの主な仕様は、以下の通りです。
1.型式:CASIO
121-E
2.大きさ:幅180・奥行206・高さ65(単位:mm)、重量:1.4kg
3.電源:AC
100V±10V 消費電力:7.0W
4.桁数:置数12桁・加減乗除結果12桁
5.表示素子・状態表示:VFD(蛍光表示管)
・負数表示(赤で"−")・エラー時"000000000000."
6.搭載メモリー:1本
7.定数計算:[×][×]、[÷][÷]のキー操作、乗除のみ可能
8.主な計算機能:四則計算、各種定数計算、メモリー計算、合計計算、百分率(%)、小数部丸め(0,1,2,3,4,6桁)、四捨五入・切捨てなど
9.標準小売価格(当時): 39,500円
※型番について
型番の頭にアルファベットの付かない「ナンバー・シリーズ」です。
121-Eの場合、上の「12」で12桁電卓である事をあらわし、「1」は独立メモリー1本、「E」は不明です。
※製品の概要
カシオは1973年2月に、この121-Eと同じ大きさ・機能・ほぼ同一デザインの「121-L」というモデルを発売しています。価格は49,500円でした。
ただしこの頃は「電卓戦争」の真っ只中。機能の充実と共に加速度的に電卓の値段が下がっていった時期です。121-Lも発売当時は妥当な価格だったかもしれませんが、1973年は各メーカーとも、3万円台前半〜後半の12桁電卓を続々投入するような状況でした。
これでは121-Lの49,500円は、割高感が強くて売れません。そのため年末に、中身は全く同じですが価格を一万円下げて、4万円を切る価格で投入したのが121-Eです。121-Lと121-Eの性能は全く同じで、内部回路も同様。外見のカラーリングだけが違っています。キー部分の板が121-Lは銀色に対し、121-Eはメタリックグレー。また置数キーが、121-Lは黒に白字なのに対し、121-Eは白に黒字です。
ルート機能の付いた√121-Sも、全く同じ時期に√121-Eとして、こちらは15,000円下げて44,000円で発売しています。
デザイン的には本格実務電卓として必要なキーとスイッチだけが置かれ、完成されたものになっています。キーの大きさや表示部といい、非常にシンプルで機能的なデザイン。個人的には最も好きなデザインの一つです。
割とコンパクトな外観ですが重量は1.4kgあるため、持ってみると結構ズッシリときます。なお社名ロゴは「Casio」の旧字体で、後継機種の「121-U」から今の「CASIO」ロゴになっています。
※表示について
蛍光管表示は12桁ですが、いわゆる「ゼロサプレス」がかかっていません。ゼロサプレスとは、例えば1234を表示する時に表示不要な桁を表示せず「1234.」とだけ表示する機能です。121-Eにはこれが無いので、1234なら「000000001234.」と、本来表示不要な桁にも0を表示します。
1975年頃までの電卓には、ゼロサプレスなしのモデルが少なくなりませんでした。
表示の大きさは可も無く不可もなく、ちょうど良い大きさです。筐体のサイズと比較しても割りと大型で、視認性は問題ないでしょう。
※キータッチについて
キーの感触は非常に優れており、耐久性も抜群です。なぜなら、この頃のカシオ製・実務電卓には磁石と小型のリレーを組み合わせたスイッチが使われているためで、結構手の込んだスイッチになっています。なお121-Eまでの実務電卓はこのリレー式スイッチがメインでしたが、この後は導電性ゴムを用いた通常のプッシュ式スイッチになっていきます。やはりコスト的に磁石+リレー式はかかるからでしょうか・・・
カシオは以前「リレー式計算機」で一時代を築いたので、スイッチにもその技術を使ったのかもしれません。
磁石+リレー式のキースイッチ(左側・裏面から見る)
なおキーの大きさもキー間隔も十分に取ってあるので、押し間違いや押しにくいといった事はありません。左手での操作も十分やりやすい「本格実務電卓」のキーです。
※演算機能について
四則以外の計算機能は%・定数計算(K)を搭載しています。√やサインチェンジ(+/-)は付いていません。
メモリーは[M+][M-]キーで値の加減を行い、[T]キーでメモリーの値を表示します。メモリー内部のクリアには[AC]キーを使いますので、メモリーを保持したまま計算をご破算にするには[C]キーを使います。
なおICの処理能力の理由で、加算・減算に比べて乗算・除算・パーセントの計算には最大0.5秒ほどの時間がかかります。
※まとめ
このモデルが発売される前年には「カシオ・ミニ」が発売され、電卓のパーソナル化と低価格化が急速に進んでいた時期(通称「電卓戦争」)です。特に1973年以降5年間ほどの価格競争は激烈で、多くのメーカーが競争に耐え切れず、電卓の製造を中止していった時期でもあります。
121-Eはその「電卓戦争」が始まったごく初期のモデルで、前機種の121-Lが価格競争のあおりを受けたため「機能はそのままに、価格を2割下げた」というものです。メーカーとしては相当の英断だったでしょうが、その英断すら遥か彼方に追いやられるほど、翌年以降の価格競争は熾烈なものになっていきました。121-Eの後継機である121-Uを例にとっても、121-Eと比べてICチップの統合、部品点数の減少、磁石+リレー式のキーを止めるなど、コストダウンに相当の努力がされた跡があります。
当時のカシオは、カシオ・ミニを除けば「8桁のAS-8シリーズ、10桁の101シリーズ、12桁の121シリーズ」が主力製品でした。そのため販売台数もかなりあったようで、今でもネットオークションなどで動作品が出品される事があります。入手は難しいですが困難というほどではありません。
機会があれば一度入手して手にとって見れば、当時の電卓が高級品であり部品点数も多く、相当コストがかかっている事が分かると思います。
今の電卓には機能も計算速度も劣りますが、この当時の電卓は作りが丁寧な事もあり、使っていてなかなか味のある製品が多いと思います。