電解コンデンサな話

 中二の時に1石レフレックス・ラジオを作って以来、このパーツとの付き合いは25年以上になります。当時と比べると、本当に小型化・高性能化されました。種類も標準用・オーディオ用・車載用・電源用など多彩です。
 最近はオーディオ製品のチューンアップや、コンピュータのマザーボードでの大量死事件など何かと話題のパーツです。それだけに電解コンデンサに関する情報は様々な内容が乱れ飛んでおり、何が正しいのか判断に困る状況でもあると思います。
 ここでは、電解コンデンサの寿命や耐圧、おススメの製品といった内容を、メーカー資料からのデータなども踏まえて、少し書いてみました。
 なおコンデンサの役割や基本的な動作については、それを扱ったページがネット上には沢山あるので、それを参考にして頂ければと思います。

.電解コンデンサの寿命について(主にアルミ電解コンデンサ)

 アルミ電解コンデンサは、電子回路の内部でよく見かける円筒形の部品です。側面には「1μF 50V」などの静電容量と耐圧の表示があります。

 ズバリ言ってしまうと、我々が普通に使っている電気製品(ラジオや電卓も含まれる)で、メーカーが想定した利用環境や内部温度、耐圧の範囲内で使用した場合、アルミ電解コンデンサ(国産品)の有効寿命は

14〜15年

 と考えています。
 理由は、ここにある資料・「寿命の定義について」における「有効寿命」の期間が、コンデンサ・メーカー想定の使用環境で使った場合、最長でも14〜15年と考えられるためです。この期間設定は、大口ユーザーである電機メーカーの意向が大きいと思います。

 電機メーカーが、特に「民生品」と呼ばれる我々が日常使うような電気製品を設計・製造する場合「通常の使用で、製造後10年間はノートラブルで動作する」事を目標にします。電解コンデンサは電子部品の中でも比較的寿命の短い製品ですが、それでも電機メーカーにとっては「数年で壊れてしまっては困る」のです。
 そのためここの「寿命の定義について」の「設計寿命」は、おおむね出荷後10年が一つの目処になります。

 そして「有効寿命」を過ぎると電解コンデンサの故障率はどんどん上昇します。これは「磨耗故障」と呼ばれますが、多いのは内部を密閉している封口材の劣化による電解液の蒸発や液漏れ。これにより容量抜け・損失角の正接や漏れ電流の増大を招き、最終的にすっかり蒸発または漏れてドライアップ→使用不能になるパターンです。この封口材劣化が14〜15年経つと目立つようになりますが、ここが有効寿命のラインだと考えています。

 もちろん20年以上経過しても正常動作している場合は多くあります。それでも30年を超えると、さすがに厳しくなってくるでしょう。古いBCLラジオや液晶表示が登場する以前の電卓などは、ある日突然動作しなくなっても不思議ではないのです。

2.アレニウスの法則と温度について

 電解コンデンサは温度によって寿命が変わります。市場に多くあるのが85℃・2,000時間と105℃・2,000時間で、これは「適切な使用で、85℃または105℃の温度下における2000時間の動作を保証する」という意味です。ちなみに多くの電化製品(ラジオや電卓を含めて)は85℃品で、特に高温下で使う機器(パソコンやサーバ、車載機器等)に105℃品が多く使われています。

 そしてよく言われるのが「動作温度が10度下がるたびに、寿命は2倍になる」という「アレニウスの法則」。例えば「85℃・2,000時間動作保証品は45℃環境下では32,000時間」「105℃・2,000時間では45℃環境下では128,000時間」の寿命になる、というものです。
 しかしメーカーは、例えば85℃・2,000時間品で「85℃環境下で2,000時間の動作保証」はしますが、同じ品で「45℃環境下で32,000時間の動作保証」は、しません。アレニウスの法則による動作時間はあくまで「想定の中」での話であり、早い話が単なる「目安」です。

 また、105℃品が85℃品の数倍の寿命とアレニウスの法則で出たからといって、使われている材料(ケース・封口材・電解液・電極など)が数倍の耐久性や寿命を持っている訳ではありません。封口材の材質一つ取っても105℃品のが85℃品の何倍も持つという事はありませんし、結局14〜15年も経過すれば、適切な使用でも劣化スピードは同じように早まる可能性が大です。

 すると「85℃品と105℃品の違いは何?」という事になりますが、単純に「高温下での動作に強いかどうか」です。コンデンサ内部や外部温度が常時35℃を超えるような環境で使うなら、105℃品でしょう。それ以外なら85℃品で十分です。
 よって元々付いていた85℃品コンデンサを、寿命向上を狙って105℃品に換える、といった作業は、あまり意味がありません。105℃品は85℃品より概ね高価ですし、正直お金の無駄です。
 また105℃品は85℃品に比べて、高温下での特性と寿命が上回るかわり、代償として別の特性が85℃品より落ちる場合がしばしばあるので、お勧めはしません。

3.低ESR・低Z・高リップル電流のコンデンサ

 最近「高周波平滑用」「電源用」等で、今までの製品より「低ESR・低Z・高リップル電流」を売りにした電解コンデンサが出てきています。
 結論から言えば、20〜30年以上前の機器にこれらを使う必要はありません。標準品で十分です。
 また当時の設計では、電解コンデンサのESRなども考慮に入れている場合が少なくありません。そこに低ESRのコンデンサを入れると、かえって機器の調子がおかしくなる場合もあります。「導電性高分子電解コンデンサ」と呼ばれる、固体コンデンサも同様です。
 元々入っていた電解コンデンサと、出来るだけ種類や特性が類似した製品を使うのが、修理やチューンアップの基本です。

4.電解コンデンサの耐圧について

 交換の場合は「あらかじめ使われていたコンデンサの耐圧と同じか、それ以上にする」のが基本です。「元の耐圧より下げる事はしない」という事だけ守れば、問題はありません。
 耐圧のマージンですが、20%もあれば大丈夫です。40Vが流れる所に50V品を使えば、(1 - (40V / 50V)) * 100 = 20 で、ちょうどマージンは20%です。余裕を持っても30%あれば十分でしょう。
 耐圧マージンをどこまで大きくとっても普通は問題なく動きますが、トランジスタ・ラジオは耐圧50V、電卓はVFD表示で耐圧100Vまでの品なら大丈夫のはずです。あまり高耐圧のものを修理に使おうとすると、大きすぎて周囲の部品に干渉し基板に入らない・高さがつかえて裏蓋が閉まらないといった事になるので、程々にという所です。

5.修理に使う、おススメの電解コンデンサ

 基本的に私は2種類です。これ以外は容量や耐圧のラインナップが少なかったり、音質などで独特の癖を持ってしまう事が多いためです。

(1) 日本ケミコン・SMG

 85℃の標準品で、最も使いやすく癖の無い電解コンデンサ。あらゆる機器の修理用として使えます。
 オーディオ用としても有能で、30年以上前のアンプを修理するのに色々試したら、SMGが一番結果が良かった、という話もあります。

(2) ニチコン・KW

 (上記リンク内で"KW"を選ぶ) 85℃のオーディオ用標準品。もちろん普通のコンデンサの代わりとしても使用できます(もったいないですが)。
 KWの特徴は、音質に変な癖や特性をほとんど付けず、低音から高音までのバランスを重視した点にあります。ノイズ特性も優れています。
 アンプなどの低周波を扱う所、弱電機器の電源平滑用などで実力を発揮します。


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