SONY ICF-6800

 ICF-6800(以下"6800"と略)は、1977年10月に発売されたFM/MW/SWの31バンド・ラジオです。6800の主な仕様は、以下の通りです。

1.型式:SONY ICF-6800
2.大きさ:横453・高さ184・奥行227(単位:mm)、重量:約5.8kg
3.電源:単1電池×6、AC 100V、DC 9V
4.受信周波数:FM:76〜90MHz、MW:530〜1605kHz、SW:1.6〜30MHz
5.受信回路:ダブルスーパーヘテロダイン&PLLシンセサイザー(SW)/スーパーヘテロダイン(FM/MW)
6.ダイヤル:ドラムダイヤル式(MW/SW)・回転円盤式(FM) MW/SW用ダイヤルにフライホイール搭載
7.アンテナ:FM/SW:内蔵ロッドアンテナ:MW:内蔵フェライトバーアンテナ。FM/AM外部アンテナ端子

8.主な機能:1kHz直読デジタル周波数カウンター(MW/SW)、AFC、メモリー式ダイヤルライト(AC駆動時は常時点灯)、メモライト、低音・高音独立音質調整、プリセレクタ(SW)、RF GAIN調整(MW/SW)、選択度切替(WIDE/NARROW)、BFO(USB/LSB切替可能)、指針アジャスト(MW/SW)、イヤホン/REC OUT/タイマー端子、アンテナ切替(ロッドアンテナ/外部アンテナ)
9.当時の定価:79,800円

 ソニーは、デジタル周波数表示の出来る短波受信可能なレシーバーに、最初「ICF-6***」の型番を与えていました。ICF-6000だけはスカイセンサー・シリーズの防滴仕様機でしたが・・・その6000番台・最上位モデルが6800です。
 基本的には、1975年に発売された超高級受信機「ワールドゾーン32(CRF-320)」の主要機能をほとんどそのまま突っ込んだ「CRF-320 Lite」とでもいうべき存在です。31バンドだから「ワールドゾーン31」とても呼ぶべきでしょうか。対して良く似た外観の「ICF-6700」は、BCLラジオ「スカイセンサー5900(ICF-5900)」をベースに機能を思い切り拡張した「ICF-5900 Super」とでもいうべき存在です。

 そのため6800と6700は姉妹機のように語られる事もありますが、仕様的にはだいぶ異なります。6800はCRF-320直系の弟分でワールドゾーン・シリーズの一員。6700はICF-5900の兄貴分でスカイセンサー・シリーズの一員と言えます。この2台は姉妹機と言われる割には定価がだいぶ違います(6800=\79,800、6700=\54,800)が、元々の製品ライン違いによる、仕様面での違いが大きいと言えます。
 しかし相当気合を入れて作ったと思われる6800と6700なのに、ワールドゾーンやスカイセンサーなどのペットネームは与えられませんでした。1977年と言えばBCLブームが一時の爆発的勢いを無くしてきている頃で、敢えてペットネームを付けて営業展開する必要を、当時のソニーが感じなかったのかもしれません。

1.デザイン・外観

 まず外観を見ると、縦長なスカイセンサーとは全く異なる、低く横に流れるようなデザインが特徴です。松下の「クーガ2200(RF-2200)」とは、高さはほとんど変わらないのに横幅は15cm近く長い(2200=31.8cm、6800=45.3cm)。また特筆すべきは奥行の深さで、22.7cmは当時のBCLラジオの平均から見て2倍以上。ラジオと言うより通信型受信機のサイズで、持ち運びには向かず据置型のモデルです。

(1) ツマミ・スイッチ

 主要なツマミ類は、全て前面に配置されています。唯一、ロッドアンテナと外部アンテナの切替スイッチが、背面に付いているのみです。
 ツマミやスイッチは、先に記したCRF-320と同じ大きさ・デザインのものが多く使われています。違う点は、電源とAFCスイッチがCRF-320のロータリー式からトグル式になり、MW/SW用の選局ダイヤルも少しデザインを変えて、厚みを増したものになっています。
 そしてSWの1MHzごとのバンド切替スイッチは、同軸に10MHz/1MHzの切替スイッチを配した、独自のデザイン。他にこのスイッチを採用した受信機はなく、6800のデザイン上の大きな特徴になっています。

(2) 表示系

 周波数表示ですが、FMはCRF-320と同じもの(回転ダイヤル式)が使われています。周波数直読は出来ませんが、表示も大きく選局は非常にやりやすいものです。
 MW/SWは、赤色LED表示の5桁・デジタル周波数カウンタで1kHz単位の表示。これはスイッチで消灯も可能です。
 またMW/SW選局ダイヤル左には大型のドラムダイヤルが付いており、このダイヤルだけでSWは0〜1000kHzまでを、MWは530〜1605kHzを10kHz単位で直読できます。このドラムダイヤルが有るか無いかが、ICF-6700との大きな外見上の違いです。
 なおこのダイヤルには、東芝のTRY-X2000(RP-2000F)のFM/MWダイヤルにあるような、指針アジャスト機能も付いています。

 メーターは45mm角の大型アナログメーター、おそらく200μAの高感度タイプ。これはCRF-320とデザインは違いますが同等品でしょう。ICF-5900やRF-2200のメーターのように、ちょっとした信号ですぐ振り切れる事はなく、結構リアルに信号の強弱を表示します。
 そして周波数カウンタの右側にも何やらダイヤルらしき物がありますが、これはプリセレクタ用のダイヤルです(SW受信時のみ有効)。

(3) 外部端子・電池

 本体正面左から、ヘッドフォン(ステレオヘッドフォンも使用可、ただしモノラル音声)・イヤホン・REC OUT・TIMERの各端子を搭載。
 背面にはAC 100VとDC 9V(5.5mm径・センターマイナス型)の端子、アンテナ切替スイッチ(ロッドアンテナ/外部アンテナ)があります。
 また本体上面奥には、リード線を接続するワンタッチ式のアンテナ端子と、M型のアンテナ端子が付いています。
 乾電池は、本体上面の時差表示付き世界地図の描かれた板を上げると、その下に格納できるようになっています。

2.感度・選択度・周波数安定度など

 今回はオークションで整備済の製品を入手しての感想です。受信は内蔵ロッドアンテナ・バーアンテナを使ってのものです。

(1) 感度

 ダブルスーパーの上に第一局発周波数を19MHz付近まで上げている事もあり、イメージも少なく快適な受信が楽しめます。
 SWはICF-5900やRF-2200などの代表的BCLラジオや、RF-2600(PROCEED2600)などと比較しても、確実にワンランクを超えて上の感度で受信できます。カリカリのDX受信には向きませんが、安定して海外の国際放送やアマチュア無線、業務無線を受信するには、現在でも十二分な感度であるといえます。RF GAINにプリセレクタまで付いていますので、大出力局の信号を抑えたり目的放送局の電波を浮かび上がらせて聴く事も可能です。
 MWもICF-EX5のような中波・超高感度機ほどではないですが、高い感度での受信が可能。FMの感度も良いですが、素晴らしいというほどではありません。ロッドアンテナだけでは、FMでの遠距離受信や小出力局(コミュニティーFMなど)の受信は、厳しい場面があるかもしれません。

(2) 選択度

 6800にはWIDE/NARROWと2段階の選択度切替があります。混信がある時はWIDEからNARROWに切り替えるのですが、このNARROWにした時混信が結構効果的に除去され、聴きやすくなるのが6800の特徴でしょうか。クーガ2200やプロシード2800/2600の選択度切替とは、このNARROW時の効果が違います。いわゆる「使えるNARROW」という感じです。
 SSB受信用は、USBとLSB/CWの2モード切替。選択度はNARROWと同等でしょう。BFOは良く効いており、アマチュア無線や業務無線の電波もさほど苦労なく受信できました。

(3) 周波数安定度

 PLLシンセサイザ方式が採用されており、また修理・整備品を入手したためか、周波数安定度は抜群のものがあります。
 ソニーのICF-6700や6500、松下のRF-2800や2600といった非PLLのデジタル表示受信機は、数時間の受信でも受信周波数(カウンタ表示周波数)が少しずつずれていきます。しかし今回入手した6800では、12時間の連続受信(ラジオNIKKEI 6.055/6.115MHzと、5MHz/10MHz/15MHzの標準電波受信)でも、表示・受信周波数の変動はみられませんでした。

3.音質

 スピーカーは10cm・フルレンジを前面に設置。当時の通信型受信機の内蔵スピーカーは7.7cmクラスが多いのですが、それよりは一回り大きいものを使っています。
 高級受信機はまず受信性能重視で、音質は二の次という製品も少なくないのですが、6800はBASS/TREBLE独立音質調整と低周波増幅にもきちんと目を向けた回路構成、大き目のスピーカーのおかげもあり、FM放送も含めてかなり高音質で放送を聴取できます。

4.操作性

 操作性は非常に良好。MW/SWの選局ダイヤルにはフライホイールが内蔵されており、非常にスムースな感覚で回ります。
 SWの受信が一番操作ステップが高いですが、それも

 (1) BAND SELECTORスイッチで「SW」を押す。
 (2) PRSELECTORダイヤルを回して、受信したい周波数へ大まかにセット。
 (3) SW BAND SELECTORダイヤルで、10MHz台→1MHz台の周波数をセット。
 (4) MW/SW選局ダイヤルで、kHz台の周波数をデジタル周波数カウンタか、ドラムダイヤルを見ながら合わせる。
 (5) 受信状況により、WIDE/NARROW切替、AM RF GAINつまみ調整、PRESELECTOR微調整で、目的局が最大感度になるようにする。

 これだけで、慣れると直感的に操作できてしまいます。FMやMWの選局は、PRESELECTORやSW BAND SELECTORを使わないため、これよりさらに簡単です。

5.保守性、入手について

 ラジオや受信機関係の様々なサイトで、PLL関連のカウンタ暴走や分解・組立時の保守性の悪さが指摘される6800。
 PLL関係の暴走は、使用トランジスタの問題もあり致し方ないのですが、分解組立の保守性については、巷間言われるほど物凄く悪いという事は無いと思います。大型・高機能なラジカセ、逆に小型高性能なラジカセには、6800を上回るようなとんでもない保守性の製品も存在します。

 ただラジオ・受信機系としては、難しいと言うより「とても面倒くさい」というのは事実。ネジとつまみを外せば、リアパネルとフロントパネルまでは比較的容易に外れる感じですが、その先が一筋縄ではいかない。サービスマニュアルを持ち、内容を理解できるレベルと修理の腕が無いと、どこかを壊してしまうか、調整を狂わせてしまう可能性が高いと思います。私もライトのLED化くらいはやりたいと思うのですが、その勇気は出ません・・・

 そのためこの受信機を使いたい場合は、多少高価でも信頼できる方や業者が修理・整備した、6800を最初から入手するのが一番良いと思います。ジャンク品を入手して誰かに修理してもらうという場合、ネットで保守性の悪さが誇大に出すぎたせいもあり、最初から整備品を入手するより相当高額になる事が少なくないためです。

6.その他

 電源ですがAC100Vではなく、9VのACアダプタ(純正品はAC-D6M)を使うのが良いでしょう。
 理由は、AC100Vを使うと内部のダイヤルライトが電源ON時に常時点灯になるため、ライトが早く切れてしまう事が多いためです。このライト交換は、上記に書いたように結構大変です。
 ACアダプタ使用なら、常時点灯はしないのでダイヤルライトの寿命は長くなります。

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