VICTOR RC-707 : Stereo 707

 ここでは、初めてのラジカセ(Boombox)の紹介になります。
 RC-707(Stereo 707, 以下"707"と略)は、1975年に発売されたFM/MW/SWの3バンド・ステレオラジオカセットレコーダーです。日本ビクターが日本国内で発売した、第1号のステレオラジカセでした。707の主な仕様は、以下の通りです。

1.型式:VICTOR RC-707 (愛称: "Stereo 707")
2.大きさ(概算):横408・高さ229・奥行108(単位:mm)、重量:約4.8kg
3.電源:単1電池×6、AC 100V、DC 9V。
4.受信周波数:FM:76〜90MHz、MW:525〜1605kHz、SW:3.9〜12MHz
5.周波数範囲:ノーマルテープ 50〜10,000Hz、クロームテープ 50〜13,000Hz
6.ダイヤル:指針式・糸掛け式
7.アンテナ:FM/SW:ロッドアンテナ(2本):MW:内蔵フェライトバーアンテナ。

8.主な機能:STEREO WIDE/STEREO/MONO切替、テープセレクタ(CrO2テープ録再可能)、キュー&レビュー、フルオートストップ、メカニカルポーズ、FM AFC、左右バランス調整、音質調整、LINE IN/OUT端子、外部マイク・スピーカー端子、デッキ用DIN端子
9.当時の定価:54,800円

 3バンド(FM/MW/SW)チューナー搭載のステレオラジカセは珍しく、当時の主なメーカーではアイワのTPR-800シリーズがあるくらいでした。他はソニーも松下もFM/AMの2バンドで、ソニーのCFS-88、松下のRX-7700が出るのはずっと後の事です。またビクターはこの707以降、短波受信が出来るステレオラジカセを出す事は無かったので、最初で最後の3バンドチューナー搭載機となります。
 メーカーもそれを売りとしていたのか、本体上部右上の大きなバンド・セレクターが目を引きます。決して選局ダイヤルやFINE TUNINGダイヤルではありません。
 なおロッドアンテナは2本付いていますが、正面向かって左がFM用、右がSW用となります。また「VICTOR」の文字が旧ロゴですが、現行の「Victor」ロゴに変わるのは1977年。ステレオラジカセでは、707とRC-717の2機種だけが旧ロゴになっています。

 当時各メーカーのラジカセはまだまだモノラル機が主流で、ステレオラジカセは「高級機」の位置づけで1,2モデルを出しているのみでした。ステレオラジカセへの流れを一気に作ったソニーの「ジルバップ(ZILBA'P : CF-6500)」が出るのは、1976年の事です。

 受信バンドが3つである以外は、当時のライバル機であるソニーのCF-2400/2580、松下のRS-4100、アイワのTPR-850/860(これらは3バンド機)等と、基本仕様は似通っています。特にRS-4100とは、前面のデザインや上部のスイッチ配置デザインもかなり似ています。
 ただし価格は54,800円と、ライバル機が5万円を切った定価にしていたのに対し、明らかに割高。それには短波が受信できる事の他に、下記のようなメリットがあったからだと思われます。

(1) 12cm・ダブルコーンスピーカーを採用
 他社が12cm・フルレンジスピーカーを採用していたのに対し、707は同じ12cmでもダブルコーンのスピーカーを採用して、特に高域の音質向上を図っています。なおこのスピーカーは松下製ですが、松下のステレオラジカセでこれを使った製品は無いような・・・理由は不明ですが。

(2) フルオートストップ・メカの採用
 録音・再生時にテープの終わりに来ると自動的にボタンが戻るのが「オートストップ」、早送りや巻戻しも含めて全ての操作で同様の機能を持つものが「フルオートストップ」です。707は、より便利なフルオートストップの方を採用していました。
 上に挙げた他社のライバル機では、ほとんどがオートストップでした。アイワがTPR-860でフルオートストップを採用したくらいです。

(3) L/R独立の2メーター
 当時、Lch・Rch独立の2レベルメーターは、高級機にしか付いていません。ライバル機もほとんどが1メーターです。707のように2メーターを搭載したステレオラジカセは、当時アイワの最上位機・TPR-801くらいでした。

(4) DIN端子の搭載
 当時はコンポーネント・ステレオと直接接続するための、専用DIN端子というのがありました。707にもこのDIN端子を搭載しています。
 このDIN端子を搭載しているのが「高級機の証」というか、一つのステータスみたいな所がありました。

 こう見ると、707はライバル機よりも一つ上の価格帯と機能でステレオ機を投入したのかもしれません。また意外にコンパクトな筐体ですが、これは当時外でステレオの生録をする人が結構いたため、この用途に合わせてコンパクトに作ってあるものと思います。そのためか707の左右マイク横には、マイクロホンを立てる台を差し込む窪みがあります。

 音質については「音のビクター」の評判どおり、なかなか優れたものです。中身もきちんとお金をかけた回路(アンプ部はOTL採用)ですし、ダブルコーンスピーカーの効果もあって、当時の機械としてはトップクラスだったでしょう。

 ただ音を拡げる「ステレオ・ワイド」という機能がありますが、これは鳴らす楽曲を選ぶ感じです。クラシックやジャズ系はそれなりに効果がありますが、ポップスやボーカル系は音が妙に拡散された、ボケた感じの音になってしまう場合があります。
 またボリューム系はスライド式なので、現在ではかなりの確率で「ガリ」が生じています。接点洗浄剤をボリューム移動用の穴へ少量注入し、数回から十数回ボリュームを上げ下げすれば、かなり回復するでしょう。

 チューナー感度もFM/MWは今でも十分高感度ですが、SWは正直高感度とは言えません。ラジオNIKKEIやアジア、北太平洋地域の日本語放送などなら、調整次第で十分受信できると思います。なお本機はICを2個使っていますが、2つともチューナー基板にあります。一つは三洋製、一つは松下のAN203を使っています。

 カセット部ですが、モーター軸に2種類のベルトを付けて回しているという、ちょっと珍しい仕様。一つがフライホイールに接続されたメインベルト、もう一つがオートストップ用機構につながったベルトです。また早送り・巻戻し時は、フライホイールの外周部と、外周にゴムが巻かれたプーリーとが接触し、高速回転する仕組み。ソニーのCF-2400の早送り機構が、こんな感じでした。

 ゴムベルトは平ベルトではなく角ベルトですが、入手したモデルは劣化も伸びもあまり無く、良好な状態。ただし表面が結構ベタついていたので、ピンチローラー用のクリーナーを綿棒に付けて清掃すると、より良いかと思います。
 カセットの操作ボタンはガッチリとしていて、操作ボタンは結構重め。特に録音時はPLAYとRECORDボタンを同時に押し下げる方式のため、ちょっと力がいります。ただいかにも丈夫そうで、多少の事では壊れない感じです。

 まとめると「しっかりお金をかけて作った、ビクターの初・ステレオラジカセ」という感じでしょうか。
 その後の高性能ステレオラジカセと比べれば機能・性能とも一段落ちますが、今でも十分に聴ける一品だと思います。

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