National RF-868 : 2000GX WorldBoy

 RF-868(2000GX WorldBoy, 以下"868"と略)は、1971年に発売されたFM/MW/SWの3バンド・ラジオです。868の主な仕様は、以下の通りです。

1.型式:National RF-868 (愛称: "2000GX ワールドボーイ")
2.大きさ(概算):横245・高さ150・奥行73(単位:mm)、重量:1.9kg
3.電源:単2電池×5、AC 100V
4.受信周波数:FM=76〜90MHz、MW=525〜1605kHz、SW=3.9〜12MHz
5.受信回路:スーパーヘテロダイン(FM:10.7MHz/MW・SW:455kHz)
6.ダイヤル:フィルムダイヤル式
7.アンテナ:FM/SW=内蔵ロッドアンテナ:MW=内蔵フェライトバーアンテナ
8.主な機能:FM AFC、MW/SW感度切替(DX/LOCAL)、3ウェイメーター(TUNING/VU/BATT)、ラウドネス、NEWS Position、メーター切替スイッチ、60分ON/OFFタイマー、ダイヤルライト、音質調整
9.外部端子:イヤホン/PHONO(AUX)/MPX OUT/STEREO IN/NSBクリスタル
10.当時の定価:17,300円

 ソニーの「イレブン」シリーズと高感度ラジオの覇を競った、松下の「ワールドボーイ」シリーズ。その最高峰が868です。翌年(1972年)には、FMワイヤレス送信機能を追加した、RF-868Dも発売されました。
 RF-858(WorldBoy GX:以下"858")の後継機であり、電源スイッチ類やスピーカー部のグリルデザインは、858から受け継いだ形です。ただ当時のカタログに「オーディオ仕様」とあるように、つまみやバンド切替スイッチなどは当時のオーディオ機器を意識したデザインになっています。つまみ側面に滑り止めのギザギザが無いなどは、その表れです。

1.オーディオ仕様・豪華な設計

 オーディオ仕様という所は、内部回路やケースにも反映されています。
 基本回路構成は一般的なシングルスーパーですが、よく考えられた構成と良質な部品を贅沢に使った豪華なもの、という印象です。スピーカーは当時としては低インピーダンスの4Ω(当時は8Ωが多い)を使っており、2.2Wの実用最大出力を叩き出します。
 インピーダンスを下げると出力は稼げますが、アンプ部にかかる負荷も歪も大きくなります。868の場合、相当のアンプ負荷に耐え、低歪な回路構成と部品を使用する事で、高音質の音を出すように配慮してあります。
 ケースについては「裏蓋」がありません。前面・両側面・背面が一体化されたケースになっており、修理時などには底面・側面のネジを緩めて下からスッポリ抜き出す独特の構造になっています。簡易なエンクロージャを構成して音質アップを図ったような造りで、しかも底面と背面以外には金属板を貼っています。内部も金属製部品が多く、プラスチックも厚く丈夫なものを使っているためか、1.9kgという重量感のあるラジオに仕上がっています。
 スピーカーも通常のケース固定とは異なり、下図のようにシャーシに爪で固定されています。

図1 ケースを抜いたシャーシ

2.操作系

 操作系は本体上面へ集中配置しています。前面に選局ダイヤルとタイマーセットダイヤルがあり、他の面にはつまみ・スイッチ類はありません。ジャック類は左側面にまとめられており、全体として非常にスッキリした配置となっています。
 前面では、タイマーセットダイヤル(最大60分)の大きさが目を引きます。868が初のタイマー内蔵ラジオという事もあり、セールスポイントとして大きく取ったのでしょう。なおそれまでのWorldBoyにもタイマーはありましたが、外付けのオプション品でした。最大60分までで、電源のONまたはOFFが可能です。なおゼンマイ式ですので、精度はソコソコです。

 上面のレイアウトは、図2ですと左上からダイヤルライト/バッテリーチェックボタン・音質・音量。左下から電源・ニュースポジション・ラウドネス・メーター機能切替。右上がバンド切替(SW/MW/FM)・AFC/AM感度切替(DX/LOCAL)となっています。AM感度切替は、SW/MWどちらの受信時も有効です。
 3ウェイメーター(VU/BATT CHECK/TUNING)と選局用ダイヤルスケールは、右下に配置されています。スケールはフィルムダイヤル式で、ダイヤルライト点灯時には指針の周囲のみを明るくします。メーター側の照明はありません。

図2 RF-868の上面レイアウト

3.ニュースポジション(NEWS)

 868の機能上のポイントは「タイマー内蔵」なのでしょうが、個人的には「ニュースポジション」の搭載が大きいと考えています。868では「NEWS」、868Dでは「NEWS P.」とあるスイッチです。
 これは一種のオーディオフィルターであり、特にSW/MWの聴きづらい局を受信する時に有効で、NEWSにすると人の話し声付近の音声を強調して、それ以外の音の成分(ノイズ等)をカットする働きをします。この機能が予想以上に「使える」もので、私が868を非常に気に入っている理由の一つです。
 他のBCLラジオなどでは音質(TONEまたはBASS/TREBLE)の調整でそれなりの効果が出ますが、868はスイッチ一つで相当の効果が出る所がポイントが高いです。
 なお他のラジオやラジカセでは、CF-1790(SONY)の「VOCAL UP」機能や、FR-6600(Victor)のオーディオフィルタ機能があります。非常に便利なのですが、BCLラジオへの搭載は少ない機能。それだけに貴重です。

4.感度・音質

 FMだけではなくSW/MWともにFETによる高周波増幅を行っている事もあり、全波とも非常な高感度です。シングルスーパー機ですが、感度という点では後のRF-2200や、SONYのICF-5800/5900にも並びかけるような性能を誇ります。特にFMは調整がうまくいけば、868の勝ちですね。
 ニュースポジションを使えば、SW/MWでの放送内容の了解度という点なら、後のBCLラジオをも上回る事がしばしばです。
 また868のチューニングメーターは、RF-2200やICF-5900のように「すぐ振り切れるような感度メーター」ではなく、結構リアルに電波の強さを表示します。フェージングに伴う追従性もなかなか良い感じです。

 音質もとても良いです。松下のラジオらしい、若干柔らかめで聴き疲れのしない音。音質調整つまみは1つですが、低域増強のラウドネスに前述のニュースポジションスイッチまで搭載していますから、色々なソースに対して最適な音質をセレクトする事が出来ます。

5.まとめ

 WorldBoyの中では最も大きい型番(868)だけあり、機能・性能ともワールドボーイ・シリーズの集大成になっています。またかなり奢った設計のラジオであり、こういうラジオは簡単に劣化や性能落ちがしないので、今に至っても調整すれば、発売時の性能をほぼ発揮できる個体も少なくないのではないでしょうか。
 デザインも「古さを感じてもカッコイイ」ものですし、特に大きな欠点もありません。傑作と言って良いと思います。

 ただ欠点かどうかは微妙ですが、868は高性能を実現する為なのか、電池は単2×5本(7.5V)と多めに使います。ただ5本という本数は何とも中途半端ですし、電源ラインに使われている電解コンデンサの耐圧(10V)などから考えて、最初は6V(電池4本)設計ではなかったのかと思うのですが、どうなのでしょうか?
 逆に当初は電池6本(9V)での設計で「他社と比べて電池使いすぎ!」という事から、1本減らしたのかもしれませんが。


RF-868の内部と調整について(作成中)

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