National RF-888 : COUGAR

 RF-888(COUGAR, 以下"888"と略)は、1973年に発売されたFM/MW/SWの3バンド・ラジオです。888の主な仕様は、以下の通りです。

1.型式:National RF-888 (愛称: "クーガ")
2.大きさ:横228・高さ192・奥行73(単位:mm)、重量:2.4kg(電池含む)
3.電源:単1電池×4、AC100V、ACアダプタ(6V)
4.受信周波数:FM=76〜90MHz、MW=525〜1605kHz、SW1=3.9〜12MHz

5.受信回路:スーパーヘテロダイン(FM:10.7MHz/MW・SW:455kHz)
6.スピーカー:16cmダブルコーンスピーカー(DL16)・実用最大出力 2.6W
7.半導体: 1IC・1FET・14トランジスター
8.ダイヤル:フィルムダイヤル式
9.アンテナ:FM/SW=内蔵ロッドアンテナ:MW=内蔵フェライトバーアンテナ
10.主な機能:FM AFC、MW/SW感度切替(DX/LOCAL)、3ウェイメーター(TUNING/VU/BATT)、ダイヤルライト、音質調整(BASS/TREBLE)、ラウドネス、120分ON/OFFタイマー
11.外部端子:イヤホン/MIC/MIXING REC OUT/MPX OUT/STEREO IN・REC OUT/NSBクリスタル/DC 6V(5.5mm径標準ジャック・センターマイナス型)
12.当時の定価:18,000円

 クーガ(RF-888、以下"888")は、ワールドボーイシリーズの後継としてナショナル(松下電器)が発売した、高感度・高音質ラジオです。当時のキャッチコピーから「吠えろクーガ」とも呼ばれますが、正式なペットネームはただの「クーガ」です。
 前年(1972年)にソニーから出た「スカイセンサー5500(ICF-5500)」が、斬新なデザインや機能もあいまって売上を伸ばしていた時。松下としても対抗機を出さざるを得ない状況で、ペットネームもワールドボーイからクーガへ一新。その第1号機が888です。スカイセンサー5500の対抗機が888で、スカイセンサー5400(ICF-5400)の対抗機がWorldBoy GXO(RF-848)、といった関係だったと思われます。
 ボディーカラーは、画像にある黒の他に赤と青がありました。現在残っている888は黒が圧倒的に多く、赤や青の888は少なめです。

 デザインは、本体前面いっぱいに装着した、16cm・ダブルコーンスピーカーが特徴。なお松下は他にも16cmスピーカー搭載のポータブルラジオを3つほど出していますが、ダブルコーンは後に発売されるRF-1150(クーガ115)と、この888のみ。ツマミ類も前面に配置したクーガ115と異なり、888の方がスピーカーの部分が強調されたデザインになっています。スピーカーグリルのデザインは、当時の松下製ラジカセ(音のMAC・RQ-552他)と同じものです。このスピーカーのおかげもあって、音質・出力とも歴代のラジオの中では最高レベルにあります。
 操作系はほとんど本体上面にまとめられています。RF-868の流れを受け継いでおり、スイッチ・つまみの配置も似通っています。選局ダイヤルとタイマーつまみを右側面に一方、この頃のクーガ・シリーズに搭載されていたジャイロアンテナはありません。しかし下の画像を見ても分かるように内部には非常に長いバーアンテナ(約16cm)が入っています。

図1 RF-888の内部(裏面)


1.内部回路の構成

 図1を見ていると、3バンドラジオとしては一般的なシングルスーパーの回路構成という印象です。ただマイクを接続してアンプとして使えるように、トランジスタ2石を使ったボリューム調整付のマイクアンプ回路が付いています。
 FET(2SK49)はRF-868(WorluBoy 2000GX)と同様に、FM/MW/SWの全バンドで高周波増幅をおこない、888の高感度化に貢献しています。さらにFMのみ中間周波増幅段を1段入れており、そのためFMは非常に高感度です。
 高周波増幅部のトランジスタは、全て松下の2SC1359(5個)を使っています。これは壊れたりhFEが下がっている場合があるので、長く使おうとする場合は2SC1675(NEC)や2SC2786(ルネサス)に交換するのがいいかもしれません。
 低周波増幅部は、2SC1537/1538(ローム)という、あまり見かけない小型のトランジスタを使っています。1537は2SC1675で、1538は2SC1815-GRで代替が利くと思います。
 電力増幅には2SB473という大型トランジスタが2個。図2の左側にあるように、ポータブルラジオとしては大型のものです。16cmスピーカーと同様に888の生命線とも言うべき部品で、これが壊れると修理は困難です。

図2 RF-888の内部(前面)

2.操作系

 操作つまみ・スイッチは、本体上面へほとんどの物を配置しています。左サイドにはAFC及びAM感度(DX/LOCAL)の切り替えスイッチ。右サイドには選局ダイヤルとタイマー(120分)のつまみがあります。
 背面にはAC 100Vで動作させるための電源コネクタがあります。さらにDC 6Vのコネクタも左側面にありますが、これはAC 100V動作というよりカーバッテリーコードでの動作を想定したものと思われます。もちろん普通のACアダプタも使用できます(SONYのAC-D4Lなど)。

 選局メカニズムはオーソドックスな糸かけ式です。バリコン接続ネジ1本と、頭が赤く塗られたネジ2本を外すだけで、ダイヤル駆動機構をスッポリ外す事が出来ます。
 スイッチはRF-868のようなトグル式ではなく、RF-848タイプのスライドスイッチです。タイマーはソニーのスカイセンサー(60分)より長い120分タイマーとなっており、オールナイトニッポンなどの2時間番組を聴取する際に重宝します。AMの感度切替は「MW SENS」となっているので、中波放送のみに対応です。
 最後にダイヤルライトは1個で、基本フィルムダイヤルのみ照らします。メーター照明は非常に暗く、あまり実用的ではありません。

3.感度・音質

 FMはかなりの高感度です。高周波増幅にFETを使っている事と、FMだけIF増幅段が1段多い事によります。
 MWとSWは、中の上といった感度です。FETの高周波増幅は効いているので感度は良いですが、遠距離の局を聴取するのには向いていません。これはFM中心に、音質とパワーを楽しむラジオです。

 音質は、先に述べたとおり過去に発売された全ラジオの中でもトップクラスです。ダブルコーン・スピーカーのせいか、松下の平均的ポータブル・ラジオよりは中音と高音域のメリハリが効いていると思います。

4.まとめ

 888はFM放送を中心に、高音質&ハイパワーで聴くためのラジオと言えます。逆にBCLラジオとしてはSW/MWの実力は平均的で、感度や選択度の面で物足りなさを感じると思います。
 RF-848(WorldBoy GXO)をベースとして、スピーカーの大型化・高音質化を行い、音質重視設計でまとめた一台と言えるでしょうか。
 BCLラジオとしての888は、後でRF-1150(COUGAR 115)という形で実現する事になります。


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