トランジスタの代替について

 古いBCLラジオの修理をしていると、電解コンデンサの容量抜けの次の多いのが、トランジスタやICの動作不良といったものです。
 このうちICは、現在では互換品がまず無いので一度壊れると交換は困難です。ただトランジスタは、当時と同じ型番のものこそ入手が困難な場合が多いですが、ほぼ同じ特性を持つ「代替品」と呼ばれるトランジスタを使用する事で、故障が回復する事があります。
 今回は、BCLラジオで主に使用されているトランジスタを中心に、その特徴と代替品の情報についてまとめてみました。

※この情報は独自調査に基づくもので、交換での結果を保証するものではありません。実際にトランジスタを交換する場合は自己責任で行ってください。

1.トランジスタって何?

 トランジスタの動作原理や歴史などについて知りたい人は、書籍やネット上での説明が山ほどありますので、それを探して読んだ方がいいでしょう。
 レストア時に最低限の知識としては、これだけは持っておいた方がいいかもしれません。

 ・トランジスタは、通常3本の脚が出ている電子部品。3本の脚はそれぞれ「ベース(略称:B)・エミッタ(E)・コレクタ(C)」 と呼ばれる。
 ・内部構造の違いで「PNP型」と「NPN型」に分かれる。日本メーカー製の場合、PNP型には「2SA****」「2SB****」、NPN型には「2SC****」「2SD****」 の型番が付いている。
 ・PNP型を使っている所にNPN型を使ったり、その逆は出来ない。回路への影響を考えれば、不可能と考えて良い。
 ・2SAと2SB、または2SCと2SDの違いは「高周波用」「低周波用」だが、結構いい加減。特に条件が無い限り、ラジオやラジカセでは「高周波用」の2SAか2SCを使うもの と考えて良い。
 ・トランジスタで使われる半導体材料には、ゲルマニウム(Ge)とシリコン(Si)がある(最近はGaAsなども)。GeとSiでは、最大定格電圧や電流、動作特性などに違いがあるので、交換時には「ゲルマニウムにはゲルマニウム、シリコンにはシリコンを」 と考えた方が無難。
 ・ゲルマニウムトランジスタの入手は難しい。シリコントランジスタは2SAの高周波増幅用で無い限り、入手は割と容易。

2.データシートを入手しよう 

 トランジスタの代替品を見極めるには、交換元と交換したいトランジスタのデータシートを入手して比較するのが、一番確実です。
 例えばGoogleなどの検索サイトで「2SC1815 データシート(またはdatasheet)」とキーワードを入れて検索すれば、2SC1815のデータシート(大抵PDFファイル)をダウンロード出来る可能性が高いです。
 データシートの例を、以下に示します。

2SC1815 データシート

 この中で注意しなくてはいけないデータは、以下のものです。交換するトランジスタは可能な限り交換元のトランジスタと同じか、相似している物を選びます。

(1) 絶対最大定格
 これ以上はトランジスタに流してはいけない電圧や電流、動作温度などが記載してあります。一般的には、この定格の半分以下の電圧・電流で使うのが望ましいとされます。
 またコレクタ損失(Pc)は、大きい値ほど大きな電気信号を扱えるという大まかな指標になります。アンプの電力増幅用なら数W〜数百Wクラスもあります。2SC1815はPc=400mWですので、小信号用です。

(2) 直流電流増幅率(hFE)
 コレクタ(C)−エミッタ(E)間に流れる電流(Ic)を、ベース(B)−エミッタ(E)に流れる電流(Ib)で割った値です。そのトランジスタがどれだけ電気信号を増幅できるかの指標になります。
 数値が高いほど増幅度は高いという意味ですが、メーカーによってhFEの測定条件はまちまちで、同メーカーの製品で無い限り単純に数値での比較は出来ません。
 なおhFEの数値によって、メーカーは記号でグレードを分けているのが普通です。2SC1815ではhFEの低い順に「O→Y→GR→BL」となっており、データシートにも記載があります。

(3) トランジション周波数(fT)
 この周波数の信号を扱った時に、hFEが1(増幅しない)という指標です。トランジスタで扱う周波数には「扱う周波数=fT÷hFE」という関係があります。このfTも、トランジスタに流す電流の大小によって変動があります。
 上記の式により、fTの値が高いほどより高い周波数の信号が扱えますし、実際の増幅(ゲイン)も稼げる事になります。RF(高周波増幅)・OSC(局発)・Mix(ミキサー)・IF(中間周波増幅)部のトランジスタを交換する場合、この値を見る事になります。逆にAF(低周波増幅)や電力増幅部に使う場合は、そんなに神経質になる必要はありません。
 FM/MW/SWを受信できるBCLラジオ等の場合、RF/OSC/MIx/IF部にはfT=200MHz以上で「高周波増幅用」「RF Amplifier」「High Frequency」などとデータシートに書かれたトランジスタを使えば、交換したのに感度低下、といった失敗は殆ど無いと思います。かたや2SC1815は「低周波増幅用」とデータシートにあり、fT= 80MHzなので高周波増幅系にはあまり向きません。

(4) 脚の位置(B, C, E)
 ある意味、一番大事なデータです。これを間違うとトランジスタどころか、ラジオセットそのものを壊す可能性すらあります。
 データシートには脚の位置が書いてあるので、これを参考にします。ほとんどのトランジスタは正面(型番が書いてある側)から見て「E, C, B」の配置ですが、時々「B, C, E」であったり(2SC710等)、「B, E, C」だったりします(2SC1394, 2SC3355等)。B, C, E→E, C, Bのトランジスタに替えるなら、向きを逆にして取り付ければ良いですが、B, E, Cは少し脚を捻り曲げて取り付ける必要が出てきます。

3.トランジスタの種類と特徴、代替品

 主にスカイセンサー(SONY)・クーガ(National)・トライX(TOSHIBA)で使われていたトランジスタを中心に触れていきます。

(1) 2SA838(松下)
 主にクーガのRF/IF部に使われていたPNP型・高周波用トランジスタ。松下は当時、ラジオでベース接地型の高周波回路設計をしている事があり、2SAを使っているモデルが比較的多いです。RF-2020やRF-1010を始め、クーガの多くも同様ではないでしょうか(なおRF-1180/1188はエミッタ接地型の回路で、2SC829等を使っています)。
 fT=300MHz(Ie=1mA)なので、FM/MW/SWともRF〜IFまで十分な特性です。特に松下はラジオやチューナー、カーステレオなどの利用で最適化されるように作ってあるトランジスタが幾つかあり、これもその一つです。一例としてfTのピークはIeかIcが大体10〜20mAあたりで来る事が多いのですが、2SA838は3〜10mAでfTのピークが来ます。これは2SC829/1359/3314といった同社のNPN型・高周波用トランジスタでも同様です。

※代替品
 代替品として入手可能なのは「2SA781-K(日立)」。共立電子で取り扱いがあります。
 fT=550MHzと高いので受信ゲインの上昇まで期待出来ますが、これはIc=-30mAという環境での値です。普通はこんなに流さないので、ラジオ使用時の現実的なfTは250〜350MHzといった所でしょうか。
 次に「2SA1323(松下)」。2SA838の小型改良版(後継品種)です。特性は全くと言っていいほど同じなので、安心して使えます。
 最後に「2SA883」と「2SA1153」のNEC勢。若松通商で取り扱いがあります。fTは883で280MHz・1153で400MHzですが、測定条件が同じ会社でも異なるので・・・(苦笑) 実際の使用ではどちらも同じくらいのゲインかもしれません。
 なお1153は、元の838が「E, C, B」の脚配列に対して「E, B, C」配列なので、交換時には注意が必要です。

(2) 2SA564(松下)
 松下のPNP型・小信号用トランジスタで、低周波増幅用です。クーガに使われている例が多いです。

※代替品
 「2SA1015(東芝)」
の一択で良いでしょう。

(3) 2SC372/373(東芝)、2SC828(松下)、2SC945(NEC)
 2SC372/373は通称「シルクハット型」と呼ばれた、同社の代表的小信号用トランジスタ。東芝の昔のラジオに沢山使われており、低周波増幅用です。372も373も、特性上の違いはほとんどありません。
 2SC828は松下の、2SC945はNECの代表的低周波増幅・小信号用トランジスタです。

※代替品
 「2SC1815(東芝)」 の一択で良いでしょう。また高hFEを求める場合は「2SC2240-BL(東芝)」 という製品もあります。

(4) 2SC380/2SC784/2SC785(東芝)
 こちらは高周波用トランジスタ。東芝製ラジオのRF/IF部で良く使われています。fT= 400〜500MHz(最大)。

※代替品
 直接の後継モデルと思われるのは「2SC1923(東芝)」。fTが550MHzと少し上がっています。Pc=100mWと少なくなっていますが、ラジオのRF/Mix//OSC/IF部には問題ないでしょう。「2SC2786(NEC)」「2SC3315(松下)」も使えると思います。
 あとfTが230〜300MHzですが「2SC3314(松下)」、「2SC1675(NEC)」 も使えるでしょう。特に2SC1675は高周波用として汎用性が高く、RF〜IF部ならかなり汎用性のあるトランジスタだと思います。

(5) 2SC710(三菱)、2SC829/2SC1359(松下)
 クーガやスカイセンサーのRF/IF部に多用されています。経年変化で脚が黒くなっていたりhFEが下がっている事が比較的見られるトランジスタです。fT=250MHz相当。

※代替品
 ここは「2SC1675(NEC)」「2SC839(NEC)」で問題ないでしょう。MIX段のみ「2SC2786(NEC)」「2SC3315(松下)」などの高fTトランジスタに変更すると、感度がアップする場合があります(要調整の場合あり)。


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